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REPORT イベント実施報告

第2回Webinar講演会(池本洋一氏)

2020年9月3日@Zoom

「ポストコロナを見据えた住宅・すまいの未来像」
講演者:池本洋一 様((株)リクルート SUUMO編集長)

ディスカッション:中井検裕、十代田朗、浅輪貴史
モデレーター:坂村圭

●講演の概略
「ポストコロナを見据えた住宅・すまいの未来像」 池本洋一 様

<コロナ禍で住み替えは減衰するか>
リーマンショックは、不動産に対する過剰融資が発端の金融危機であった。一方で、コロナは人の移動を過度に制限する経済停滞であり、不動産への大きな影響はいまのところ出ていない。実際、不動産のインターネットワード検索は、2020年4月以降伸びている。また、SUUMOの成約状況を見ても、低価格帯・郊外の新築マンション、新築分譲一戸建ての問い合わせ数は増加傾向にある。中古住宅も比較的好調だが、高額帯に関しては売り物件不足が理由に停滞気味にある。賃貸に関しては、学生の移入が不透明な部分があるが、広さや騒音不満から移転を検討している人がおり、停滞という印象はない。

<住み替え行動変容のダイジェスト>
変化のベースは、「在宅勤務」と「感染リスク低減」。この結果として、以下の4つの動きが出ている。一つ目が、都心から郊外への動き。しかしこれは限定的な動きで、湘南や房総などの便利で割安な郊外にしか人は移動していない。二つ目が、賃貸居住のプレファミリーの脱出。はじめて不動産を購入する人や、20代から30代の人の不動産購入が増えている。この動きは先買いが発生しているだけかもしれないので今後の検証が必要)。三つ目が、高額層や買い替え層の買い控えが出ていること。この点は、売り手市場の停滞が関係していると思われる。四つ目が、テレワーク率の高さが首都圏に特異的ということで、地方の動きと首都圏の住み替え行動には違いが出ている。
コロナの影響が生活にどのような影響を出ているかのアンケート(5月実施)を見てみると、首都圏では通勤日数の減少や在宅勤務の増加を5割近くの人が回答しているが、地方では3割に満たないところが多い。なお、家の近くでの生活の増加は全国共通の回答である。この結果、コロナが影響で住まい探しに変化(後押し・停滞)が出たという人も、首都圏が中心になっている。年収別でみてみると、400万から600万の人がコロナでの住み替え促進にあり、1000万以上の年収の人は検討中止の傾向にある。

<コロナが影響した住まいの性能要望の変化>
居住面積(広さ、部屋数)が欲しくなった人が2割近くいる。これと同様に、居住快適性(遮音性、冷暖房、通風性、日当たり)への要望が2割近く出ている。特に、賃貸脱出組は、部屋数が足りないだけでなく、騒音問題が影響して移住を考える人が一定数いる。テレワークがきっかけの移動総数は、全世帯の1.5%程度と予測される。年間の総移動数が全世帯の5%のため、それなりにインパクトがある数字である。
コロナに関わらず、これまでも賃貸に住む人から、入居後に遮音性や断熱性への改善要望が多くでていた。特に、2001年以降に建てられた実家から賃貸に移る人に、賃貸の居住性への不満が多い。これは、実家の性能が向上している一方で、賃貸の住宅性能が低いままであることが要因だと類推される(2000年から住宅性能表示制度がスタートしている)。今後は、賃貸の住宅性能を向上していくと共に、その性能を可視化していく事が重要となるだろう。

<テレワークにより標準間取りは変わるか>
コロナの影響で、テレワーク実施率、実施時間共に増加している。また今回は緊急実施が要請されたため、リビングダイニングでテレワークを実施している人が多くいる。このことから、新たな住宅間取りが望まれていく可能性がある。
今後のニーズを見ていくために、既にリノベした物件をみることでヒントが得られることがある。最近のリノベ事例には、マンションの中に2~3畳のワークスペースを作る例がある。これは、ウォークインクローゼットを改修することによって実現されているものである。また、マンション共用部に、ワークスペースや個人ブースを作りはじめた事例もある。東京5LDK という間取りも人気がではじめている(可変性と5畳程度の間仕切りを売りにしたもの)。この他に、ドアを締め切ることでワークスペースを創出したり、インテリアオプションをつけてワークスペースを作る事例も出てきている。

<郊外移住や地方移住はすすむのか>
駅距離を妥協して、広さを重視する傾向が出はじめている。ただし、絶対に駅からの距離を重視するという層が変わらず5%程度いることにも注意が必要。
多くの人が、在宅テレワークを3~5割の時間行いたいと回答している。このため、会社からまったく離れて居住してもいいという人が増えるわけではない。実際、SUUMOの閲覧数で伸びているのは、近郊外のニーズ(清瀬、吉川、磯子など)とリゾートエリアのニーズ(木更津、館山、葉山、逗子など)。通える範囲で広い家を作れるような場所の人気が増加していくと推測される。
中古戸建ての問い合わせデータをもとに、東京都に住んでいる人が閲覧した物件をみてみると、山梨県、栃木県、茨木県などの東京近郊部が多いことがわかる。とはいえ、これから台風などの自然災害が増加していく9月以降も、このような傾向が継続するかは分からない。
これから人気が出てくるまちは、便利な都市派と、リゾート&自然派に二極化していくだろう。ただし、全体でみると、郊外好調と言い切れる状況ではなく、都心6区の物件に対する注目度も依然として高い。(一律で郊外が好調という訳ではない。)いま、注目されている町は、湘南エリアや東北沢、奥沢などである(「住民に愛されているまちランキング」を参照)。鵠沼が良いのは、移住者にやさしくて、地域コミュニティの顔が見えていること。下北沢よりも東北沢の方が、住民満足度が高いのは、地域の人しか来ない小料理屋があるうえで、少し歩くと大規模な商業施設があるためだと推測される。このように、オープンマインドのあるまちや中核駅の隣駅が注目されるのではないかと思われる。また、まちの近くに大型ショッピングセンターや文化施設がある加茂宮、複々線化や商業開発を行っている小田急多摩センター、都市の利便性と自然の豊かさを享受できる立川(グリーンスプリングスの開発が注目)などの人気も上昇している。
この他に、別荘リゾートネットのアクセスも増加しており、軽井沢や逗子・葉山への移住者も多い。また、二拠点居住者は、若年層で年収800万円未満の人が多い。

<豪雨災害への対応>
資産価値が保てる地域の取捨選択を行う必要が高まってきている。これからは、立地適正化計画、災害危険区域、市街化調整区域などを勘案して開発を集中する必要がある。また、災害リスクが高い地域では、土木投資だけでなく、建設投資額を増やしていく事も重要となってくるだろう。
将来世代に継承できる良質な住宅はそう多くない。空き家が問題だといわれるが、きちんと見極めを行って、どこを建て替えすべきかを再考する段階にある。また、いずれかの災害リスクに居住する世帯は23.1%に上っている。この地域の人は、住み替えなども前向きに考えることが必要となってくる。

●ディスカッションの概略
(浅輪)
まだまだ地方移転は難しい状況だと理解したが、これから地方に企業が移転するなどの動向が出た際に、この状況は変わっていくか。
(池本)
若い人が東京に出ること自体を止めるのは難しいので、地方移住を考えるのであれば、地方に戻ろうとする流れを作ることが必要となるだろう。このうえで地方移住を大きく推進するポイントは二つ。一つが、地方の企業に働き改革を行っていただき、地方にも働き甲斐のある企業があるという状況を作ること。現段階では、東京の企業の方が人事や職務内容が優れているというイメージが定着している。もっと、地方の企業でも自己成長できるという状況を作っていくことが重要となるだろう。二つ目が、教育と地方の関係性を作っていくこと。ミネルバ大学が有名だが、学生時代から学業を通じて地域の活性化に寄与できるような教育プログラムを作っていく努力をしていくことが大学は必要だろう。
(浅輪)
コロナの影響で地方の学生は首都圏の大学に出てこれなくなってきている。このようなことを考えると、これから学生が首都圏ではなく地方の大学に進学するような動きが増えてくるのだろうか。より若い世代のこれからの住み替えの流れを知りたい。
(池本)
20代の人は、ショッピングモール投資型と共感投資型の二つの特性をもつ人がいる。ショッピングモール投資型とは、よりコストパフォーマンスを重んじて、リーズナブルに快適に行動するタイプ。共感投資型とは、興味関心あることに時間を割いたり、ひとの想いがこもっているものを重視するタイプ。現在注目されているのが共感投資型の若者で、このタイプの方が住まいや環境に対する意識が高い。この若者をどう育てていくかが重要となる。

(十代田)
郊外で空き家が出ているところもあるが、郊外で愛されるまちも出てきている。この二つの決定的な差とはいったい何なのだろうか。また、愛されるまちになるためにはどういったことをすればいいのだろうか。
(池本)
郊外の中でなぜ湘南が人気かというと、「人が人を呼んでいる」という理由によるところが大きい。移住した人のSNSなどが影響して、新たな移住希望者が興味を持つ。移住先のコミュニティが彼らを許容、容認してくれるので、移住者が増える人気のまちが生まれる。
また、まちに対する住民の主体性が強いところも人気が高い印象。居住者が、消費者意識が強く、住民サービスを受ければいいと思っているところは、やはり衰退傾向にある。
このようなまちの形成は、住民が力をもって魅力をつくり発信している例もあれば、鎌倉R不動産などのように住宅業者が魅力を作っているところもある。建築×不動産という視点がこれからは絶対に必要。不動産をどのようにリノベして活用したら価値が上がるかというところまで考えていかなければいけない。
(十代田)
都心で便利を好む人と、自然を好む人の両者がいるという話があったが、都心で便利を好む人とはどのようなものであるか。
(池本)
都心で便利を好む人とは、一定の通勤時間は許容するが、家付近にいる時間が長くなった時に、家の周りにそこそこ商業施設や文化施設、公園などが揃っているところを好む人。都心は都心で好む人がいるが、ある程度の広さも欲しくて、利便性も好むような人。

(中井)
都心から郊外というベクトルはまだ見極められないが、風向きだけは都心から郊外に移り始めている印象。これまで東京に引っ張られていた郊外にもチャンスが出てきていることは間違いない。このようなチャンスを地方がどうやって生かしていくかが今後の課題だと思っている。この際に、地方側の受け入れ態勢や新しく移住する人への受け入れのマインドを作っていく事が重要だと思うが、どうしたら地方は変わっていけるのだろうか。
(池本)
地方がどのように移住者を受け入れていけるようになるかは非常に難しい問題。これまで地方創生や地域おこし協力隊が地域に入っているが、このような先行的に移住した人のこれまでの貢献を可視化していくことが重要となるかもしれない。受け入れコミュニティの代表者みたいな人にどんどん移住イベントなどに出てもらって、人を中心に移住者を引き寄せていく仕組みを作っていってはどうだろうか。
(中井)
賃貸物件は全体的に質が低いが、特に地方は賃貸物件も量もバラエティもない。多様なニーズを受け入れていく賃貸市場を地方でどのように作っていけるのか。
(池本)
公的セクターのお金を入れながら、地域オリジナルの建材などを使って、地産地消の賃貸物件を作っていく流れがある。また、タイニーハウスのような、途中まで作って、最後は自分で住宅を完成させていく動きもある。ここら辺をきっかけにオリジナルの賃貸市場を作ってはどうだろうか。
(中井)
もともと住宅選びは、女性が実権を持っているといわれていたが、働き方という視点をもった男性がこれからは住宅選びに参加できるようになっていくのだろうか。
(池本)
今回はデータが揃っていないので回答できない。
(中井)
コロナは来年ぐらいから少しずつ収束していくと思われるが、これからコロナリバウンドのようなことが住宅市場に起きるのか、それとも今回のトレンドの変化は不可逆的なものとなっていくのか。
(池本)
働き方の部分で不可逆の部分が出てくる雰囲気がある。少なくとも一部の企業はテレワークやワーケーションを残していくので、これが住まいにも長期的な影響を与えていくのではないだろうか。

【会場からの質問>
-テレワークや在宅勤務自体が定着していく条件はどのようなモノか。
重要な点は3点あると考えている。一つ目は、会社の評価制度を、ジョブ型に変えていくこと。二つ目が、テレワークや在宅勤務を従業員が行えるように、企業がインフラを整備していくこと。三つ目が、在宅環境の整備。いままでは、家の中で仕事をするという住宅設計をしていないので、日本の限られた広さの中で快適に仕事を行える環境を作っていくことが重要だろう。

-賃貸の質を上げていくことには賛成だが、この抵抗勢力となるのはどのようなものか。
一番の問題は、賃貸の性能は、住んでみないと分からないという点にあるのではないだろうか。快適性や光熱費の低減額などがきちんと可視化されないのであれば、大家さんも投資ができないし、新たな居住者も選択しない。このような可視化の仕組みづくりがこれから重要となってくるだろう。
もう一つあるのが、日本の地価が下がってしまうという問題。日本の場合には、高利回りにしないと、キャピタルゲインが無いので、投資が成り立たない。地価が落ちない仕組みも作っていく努力も政策的には必要だろう。

-いくつか人気エリアを紹介してもらったが、これらのまちの形成についてお話ししていただきたい。
まちを形成していく主体は誰でもいいと思う。変態公務員(既存公務員の価値観と違って変化を起こす気概を持つ公務員)がいて、まちづくりを行っていくのも非常にいい。民間では、不動産と建築家が組んで、経済をまわしているところが面白い。価値ある不動産を作ってマネジメントしていく仕組みを作っていく取り組みは注目に値する。このような場が、外から来た人を受け入れる空間として機能していくことが重要で、サービスを受益するだけの移住者ではなく、サービス提供も行い活躍する移住者を生み出していく仕組みが必要では。

 

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