2020年11月25日@Zoom
レポート2020年11月25日 15:30-17:00 zoom開催
「人からみたレジリエンス:石巻のクリエイティブ・アプローチ」
講演者:松村豪太氏
(一般社団法人ISHINOMAKI2.0代表理事、Reborn-Art Festival実行委員会事務局長)
ディスカッション:真野洋介
モデレーター:坂村圭
●講演の概略
「人からみたレジリエンス:石巻のクリエイティブ・アプローチ」 松村豪太 様
<大嫌いだった地元の石巻市>
宮城県石巻市は人口14万人の宮城第二の都市。もともと北上川の恵みを受けて湊町として発展してきた。現在も、東北有数の日照時間を誇りササニシキの生産量が日本一で、世界三大漁場の一つの金華山沖は東洋一長い魚市場となっている。しかし、こうした事実を知っている石巻市民は少なく、シビックプライドは欠如していた。まちには「あきらめの空気」が漂っていて、高度経済成長の収束と共にシャッター街が拡がっていた。
そんな時に東日本大震災が起こった。石巻市は震源地に最も近く、津波の影響を強く受けた。現在、震災復興基本計画では「発展期」に突入した。10年間の復興期間の間に、石巻市の財政規模の4倍以上のお金が使われている。住居、インフラ、動線が復旧され、そしてハコモノも多数つくられた。しかし、これだけの予算を使った結果として、市民に活力が戻ってきたという実感はなかなか湧いてこない。例えば、国の予算を使う上では公平性の担保が重要となるが、防災センターは防災以外の用途での使用が許可されないなどの弊害がある。また、グループ補助金も元に戻すための補助であり、新たな業態への変化には使えない。2010年は人口減少社会の始まりの年とも重なる。杓子定規の政策を見直さなければ、なかなか必要とする発展は行えないと感じる。
<ISHINOMAKI2.0の誕生>
震災のガレキが片付いてくると震災前から抱えていた課題が少しずつ見えてきた。閉鎖性、しがらみ、既得権益、コミュニティーの希薄さ、若者の流出、高齢化など。これらは震災によってもたらされたのではなく、震災により顕在化した問題だと思う。
ISHINOMAKI2.0は、外から来たクリエイティブな人達とまちの若手経営者で、まちを変えていこうという震災直後の会話からはじまったものである。そこでの一貫したモットーは「震災前に戻すのではなく、全国的に地方が疲弊して久しい中、オープンでクリエイティブな地方都市のモデルをしがらみにとらわれず被災地から生み出したい」ということで、キャッチコピーは「世界で一番面白い街を作ろう。」であった。多様な主体とオープンにフェアに付き合ってきた。当初は、よそ者が9割であったが、現在は地元が6割くらいになってきている。また、メンバーが自分のプロジェクトを持ち独立するようになってきた。それらは、演劇、IT、空き家活用、他地域でのまちの活性化へとつながっている。
活動の軸となっていたことの一つが、面白い「人」の誘致である。単なる工場の誘致やベッドタウン化ではなく、課題解決能力・事業創出能力のある人が選び、活動できる街をつくるために、「面白い」人を誘致していった。面白い人とは、クリエイティブクラスやヒッピー的な人である。こうした人がどうしたら街に来てくれるかというと、「面白いこと」「自由闊達さ」「クリエイティブであること」があり、お洒落なカフェ、バー、クラフトマルシェ、ゲストハウスがあることが必要だと考え、このような場づくりを行ってきた。
<石巻のクリエイティブアプローチ①:DIY>
エリア価値を創出し、地域内外の人材巻き込みに資する「やわらかい場づくり」をひろげること、自分たちでやってみるということがDIYのポイントである。もともとは中心市街地の一等地にあるガレージであった場所にオープンシェアオフィスの「IRORI」は生まれた。震災直後にボロボロになってしまった場所を、自分たちがDIYで改修した。「IRORI」では必要最低限以上のルールを作らなかった。その結果、様々なイベントや演劇が生まれた。 2016年にリニューアルをしてからも、自由な活動は生まれつづけ、いまでは月に1400人近くの利用者がいる。ハンドメイドの店舗や出版社が起業されるという動きもある。
<石巻のクリエイティブアプローチ②:はたらきかた>
ポートフォリオ型キャリア、ローカルベンチャー、なぞベンなどの多様な働き方を推進している。ローカルベンチャーは、シンプルに言うと、地域資源を活かしたスタートアップビジネスのことである。供給と消費による利益追求型経済から、持続可能な循環型経済、持続可能な安心・安全な暮らしを支えるローカルベンチャーへの転換を図っている(なぞベンは、どうやって稼いでいるか分からないけど楽しそうなベンチャーのこと)。
震災時のボランティアからローカルベンチャーを始めた人が数多くいる。地元の人も、震災後に新たなビジネスを始めた人がいる。例えば、呉服屋三代目の人がこけしブランド「石巻こけし」を立ち上げて、小さなお土産をつくった。元高校教諭の人は、自分の実家を「はまぐり堂」というカフェをオープンした。寿司屋二代目は、「ISHINOMAKI LABORATORY」という家具工房をつくった。こうした取り組みは、とりあえずやってみようという精神がもととなっている。
このようなベンチャーのリサーチも行っている。移住者は、若い人(平均35歳)が多く、副業をしている人が多く、まちづくりに興味がある人が多い。このようなデータをもとに、石巻に面白い人を呼び込むためのコンソーシアム(「ハグクミ」)を作っている。移住相談から起業支援、情報発信までのプロジェクトを多数展開しており、その結果として復興期にボランティアをしていなかった若者も、移住して新たなベンチャーを始めている。
<石巻のクリエイティブアプローチ③:ART>
経済合理性から離れたアート・クラフトマンシップも重要である。現在、「Reborn-Art Festival=人が生きる術」の事務局長を行っており、「食」「音楽」「現代アート」を中心とした持続可能な循環の創出に努めている。現代アートは地域の人すら気付かなかった資源を浮き上がらせ、食は地元食材の新しい付加価値を創出する。衰退する地方都市では、経済合理性ではなく、面白さ、デザイン、ストーリーといった、斜め上のアプローチが重要となる。 石巻のキワマリ荘には、若手アーティストが移住してきて芸術活動を継続している。また、自宅を改修してアートのたまり場を作る人もいる。いまでは、まちの至る所にクリエイティブが拡がっており、IT、不動産、ベンチャー、カフェ、バー、コミュニティスペースなどが点在している。
震災を契機に、創造的復興が生まれている。ハリケーンカトリーナを経験したニューオリンズも、いまでは起業家のまちと呼ばれている。石巻にもこの片鱗がある。ソフトとしての取り組みがハードの復興と同じように重要となる。いまはCOVID-19が世界中で拡がっている。この経験を乗り越えた先に、新たな働き方や人との場づくりが生まれてくると思っている。
●講演を受けての問題提起(真野洋介)
クリエイティブアプローチとは、端的に言うと、ある人が新しいことを興したり、ビジネス化したり、ヒトの雇用や生きることにつなげることである。移住と企業をかけ合わせた新しいまちの動きとして、「ハグクミ」という取り組みを行っている。最初から、文化アプローチから場所を作るということを目指しており、それが今のハブ形成やローカルベンチャーの支援につながっている。
ISHINOMAKI2.0が考えるレジリエンスとは、1)多様性と寛容性を重視し、2)復興事業・施策に被災者・市民の意見を取り入れることとは別の視点(斜め上からのアプローチ)で、①現在のまちやコミュニティに活気を出す、②多くのアイデアを内外からスピーディーに集める、③多様なプロジェクトをまちの中から平行して起こしていく、④復興事業のラインに乗らない人・ことを支援する、ということにまとめられる。一般的にレジリエンスとは、回復力、弾性力、復活力などという用語で、極度の変化に直面した時にどのように目的と健全性を維持できるかという能力を指し示すものである。
レジリエンスは、復興の過程(1)緊急対応、2)修復可能なものの修復、3)実用的な置換のための壊れたものの再建、4)記念や改善・発展のための再建)に沿って理解されることであった。当時も、都市の回復の程度やスピード感や方向性が一般的な条件だけからでは計画できないことから、復興のパターンの多様性を重視することは指摘されている。しかし、石巻の人からのレジリエンスはこの指摘とも少し異なるものであった。石巻で行っていることは、パターンやプロセスにあてはめないで、「お互いに関する究極の信頼を、表現する場」である都市を生み出す動きだったように思う。この意味で、石巻2020・人からみたレジリエンスは、①さまざまな現実に向き合うことで自力で考える力を養うこと(状況・人・自然・地域)、②ビジネスやソーシャルファームのフィールドとしてみんなで耕すということ(コレクティブ・インパクト、新しい循環・価値)だと感じている。
復興期にはマクロな人口減少が注目されるが、小さいが多様な逆向きの動きを作るということが重要だと思う。人口が何%減ったかだけではなく、どれくらい面白い人が流入したかという、ミクロなデータに着目する必要がある。まちをみる視点を「流動が都市の持続可能性をつくる」に転換して、何が流動をおこす力になりうるかを、事業創出、不動産、公共空間などから考えてほしい。
2021年4月以降、復興・地方創生のフレームが外れることで見えてくる世界がある。復興に捉われなくなった時に、新しい課題やテーマが出てくると感じている。
●ディスカッションの概略
(真野)「レジリエンスとクリエイティブの関係」はどのようなものか。
(松村)寛容性、多様性は一番重要だと思っている。一方で、創造的復興がいう変な平等や公平性、市民がみんなでやるから正しいということには疑問を持っている。
(真野)セレンディピティの持続性を都市で保つにはどうすればいいか。
(松村)社会が高度化して、失敗に対する恐怖が高まっていると感じる。もっと身を任せられれば気持ちのいい生き方ができるのではないかと思っている。
(坂村)面白い人を集める「ハグクミ」の仕組みを詳しく知りたい。
(松村)国の全国共通の支援策などはあるが、石巻市独自の移住補助などは実はない。石巻市が自分たちの移住支援を好き勝手にやらせてくれているのがいいのかもしれない。
(勝)震災を契機に自分たちの生き方を変えている石巻市の魅力を感じて移住をした。まちのコンパクトさ、ヒトを把握できること、少ない資金で事業を始められることが重要だと感じている。
(真野)実験的な取り組みを始められることが重要ということか。
(松村)その通りだと思う。石巻の人は家業を継ぐことから解き放たれている。失敗したら方向転換すればいいという意識で、様々な小さな取り組みが多数起こっている。
(真野)音楽やアートなどの文化的な活動とベンチャーを興すという動きは、どのように融合していくのか。このようなものはまちの持続性にどのように寄与していくか。
(矢口)この十年は数が大事だと思ってやってきた。ただこれからは、クオリティーが求められる時代に突入してきたと思っている。
(松村)文化的なことは、まちづくりの基盤だと思っている。ビジネスをやるにも最初の情熱は面白さや楽しさ、カルチャーだと思っている。
(真野)ポートフォリオ型のはたらきかたを推進する人材育成はどのようなモノか。
(松村)教育にも力を入れていて、高校生たちに地元の先輩が講習に行くなどの活動も行っている。
(坂村)新しい働きかたを促進するような都市・インフラはどのようなものか。
(松村)どうワクワクを作れるかが重要だと思っている。便利に整っている場所だけでなくて、楽しさを伝えるデザインが必要となる。接点の話とも関わるが、地方の良さを首都圏の人にきちんと伝えるということが求められていると思う。都市の人が地方の資源や良さを知ることのできる柔らかい場を都市の中につくっていくことも必要だと思う。
<会場からの質問>
-「ハグクミ」は首都圏でどのような活動を行っているかを知りたい。
(松村)接点をどう作るかが重要。「とりあえずやってみよう大学」というのを首都圏で活躍するクリエイターやインフルエンサーと地元の人と組んで行っている。今年からはオンラインで行っている。地域外の人が石巻の人と出会う機会が増えている。ただ、リアルな話し合いがつくる楽しさや信頼関係があることが前提として必要だと思う。
-面白い人を誘致するだけでなく、普通の人を面白くする工夫はあるか。
(松村)無理に面白くなる必要はないと思うが、アプローチとして、自身の日常の経験や知識を活かして取り組みは重要だと思う。今の状態に対してモヤモヤがありながらも、自分の好きなことを表現したり、同じ興味関心があることを共有できる機会を作ってあげることが重要だと思う。
(真野)自分がやっていることを面白く感じられるようになることが重要。やってみて取捨選択できる環境があると良いのかもしれない。
ご講演資料はこちらからダウンロードできます→
松村氏資料 201125-東工大-人から見たレジリエンス-fp
真野先生資料 201125セミナー石巻真野資料